研究概要 |
熱ショック前処置の肝虚血再灌流障害軽減機構の解明を目的に、肝虚血再灌流時に活性化する転写因子と活性化に至るまでのシグナル伝達経路が、熱ショック前処置によって受ける影響を検討した。また、その転写因子により調節されている遺伝子の発現が受ける変化も併せて検討した。 肝虚血再灌流時に活性化した転写因子のNF-kBは熱ショック前処置を受けた群では抑制されていた。このNF-kB活性化抑制は、熱ショック前処置が肝虚血再灌流時のIKK非依存的LkB分解を抑えるためにおこる事が判明した。また、このI-kB分解抑制機構に、分子シャペロンであるHSP72が関与している可能性を示唆する所見が得られた。NF-kBの活性化が抑えられた結果・再灌流後のiNOS, TNF-a, MIP-2といったproinnammatory mediatorのmRNA肝内発現や、血清TNF-a値,血清CINC値、肝内CINC発現、肝内好中球集積が熱ショック前処置によって抑制された。 もう一つの転写因子のAP-1は、コントロール群に比べて熱ショック前処置群で、肝虚血再灌流後早期に活性化する事が確認された。AP-1活性化に深く関与するキナーゼ、JNKも熱ショック前処置によって再灌流早期に活性化することが判明した。また、AP-1のターゲット遺伝子で、血管拡張作用を持つHO-1の肝内mRNA発現も熱ショック群で増強しており、この事が虚血再灌流後の肝微小循環を安定させているものと思われる。 また、熱ショック前処置が再灌流後のアポトーシス、ネクローシスを抑制することも判明したが、これは熱ショック前処置が炎症反応を抑制し、肝微小循環を維持したために生じた現象であると思われる。 以上、熱ショック前処置が肝虚血再灌流時に活性化するシグナル伝達を修飾し、その結果が肝虚血耐性に寄与するいう熱ショック前処置の新たな保護機構が判明した。
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