研究概要 |
本年度には、臨床の脳死小腸移植と生体小腸移植がそれぞれ1例づつ行われたが、それぞれの症例に抗IL2レセプター抗体を用いた免疫抑制導入療法を行い、高解像内視鏡検査と免疫組織染色を用いた拒絶反応のモニタリングを行った。また、咋年度に生体小腸移植が行われた1例に対して、高解像内視鏡検査と免疫組織染色を用いた拒絶反応のモニタリングを引き続き行った。 脳死小腸移植の症例は、中等度以上の拒絶反応をきたすことなく順調に経過し、臨床の小腸移植における軽度の拒絶反応は、高解像内視鏡検査によって小腸粘膜絨毛丈の低下と絨毛の密度低下としてとらえられた。これらの軽度の拒絶反応はステロイドパルス療法で容易に消失した。さらに、免疫組織染色における粘膜上皮のアポトーシス誘導酵素caspaseの発現増強と上皮の増殖マーカーであるKi67の発現低下、周囲のリンパ球のFasL, CD4,CD8,CD56,CD20,CD25の発現増強が、拒絶反応の前駆段階でみられることがわかり、このような所見時には、治療は要さないものの注意深いフォローアップが必要であることがわかった。以上のごとく、拒絶反応はごく軽度な状態で診断され、早期の治療によって拒絶反応は容易に消失したため、移植後3ヶ月で中心静脈栄養から完全に離脱した。本年度に行った生体小腸移植症例は、拒絶反応を認めなかったが穿孔性腹膜炎と敗血症で死亡した。また、咋年に行った生体小腸移植症例のフォローアップにおいては、高解像内視鏡検査および免疫組織染色においても異常を認めず、経口摂取のみで順調な発育と成長が続いている。 以上の結果から、抗IL2レセプター抗体を用いた免疫抑制療法の導入は、長期にみても拒絶反応のリスクを下げ、高解像内視鏡検査と免疫組織染色を用いた拒絶反応のモニタリングによって、ごく早期の拒絶反応の診断が可能となり、小腸移植治療の確立に貢献できる成果である。
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