研究概要 |
ブタを用いた同所性小腸移植を行い、高解像内視鏡検査と免疫組織染色を用いた拒絶反応の診断を行った。免疫抑制剤非投与群における拒絶反応は高度であり、内視鏡検査で潰瘍形成と粘膜脱落がみられ、拒絶反応の診断は容易であった。一方、免疫抑制剤タクロリムス投与群における拒絶反応は、通常の内視鏡検査ではとらえられない軽微なことがあり、このような場合には高解像内視鏡検査における絨毛丈の低下と絨毛密度の低下が拒絶反応の診断に有用であった。さらに、免疫組織染色での小腸粘膜上皮のアポトーシス誘導酵素caspaseの増強と上皮の増殖マーカーKi67の低下、周囲のリンパ球におけるFasL, CD4, CD8, CD56, CD20, CD25の増強が、拒絶反応の前段階でみられることが判明した。 臨床においては、2例の生体小腸移植と1例の脳死小腸移植が行われ、それぞれの症例に抗IL2レセプター抗体を用いた免疫抑制導入療法と高解像内視鏡検査と免疫組織染色を用いた拒絶反応のモニタリングを行った。3例とも中等度以上の拒絶反応をきたさなかった。臨床の小腸移植においても、軽度の拒絶反応は高解像内視鏡検査によって小腸粘膜絨毛丈の低下と絨毛の密度低下としてとらえられ、これらの軽度の拒絶反応はステロイドパルス療法で容易に消失したさらに、高解像内視鏡検査においても全く変化が認められない状態において、上記した免疫組織染色の所見が拒絶反応の前駆段階でみられることがわかり、治療は要さないものの注意深いフォローアップが必要であることがわかった。 以上の結果から、抗IL2レセプター抗体を用いた免疫抑制療法の導入は、拒絶反応のリスクを下げ、高解像内視鏡検査と免疫組織染色を用いたモニタリングによって、ごく早期の拒絶反応の診断が可能となり、小腸移植治療の確立に貢献できる成果であると考えられた。
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