研究概要 |
我々はこれまで肝再生開始機構の解明に向けて、細胞外マトリックスおよび細胞間接着因子と肝細胞増殖との関連の研究を進めてきたが、本研究では肝切除の直後に変動する残存肝の門脈血流量と、それに伴うずり応力(shear stress)の急激な変化が、肝再生開始機構に関与する可能性に注目し、その分子生物学的機序の解明を目的とした。肝切除後早期に変動するファクターとして、immediately early geneと呼ばれる遺伝子群の発現があるが、より上流の細胞内シグナルの存在が推測されるものの、未だその分子機構は解明されていない。今回、ずり応力による細胞内シグナル伝達の仲介分子として、注目されているRhoGTPase(Rho, Rac1, Cdc42)の肝再生開始機構への関与を検討した。具体的には、Rac1の変異体(N17Rac1)をin vivoで肝臓に強制発現させ、肝切除後の再生に及ぼす影響を検討し、ずり応力と肝再生開始機構の関連を検討した。またこれに先立ち、in vivoでのRac1の変異体(N17Rac1)導入効果を検討するために、肝虚血再潅流モデルにおいて、Rac1活性化抑制の再灌流障害抑止効果を検討したところ、アデノウイルスベクターによるN17Rac1強制発現により、著明な肝傷害抑止効果を認めた。このことから、本研究でのin vivoシステムにおいて有効にRac1活性が抑制されていることが確認された。現在までに、肝再生モデルにおける検討では、N17Rac1導入群における肝再生能の低下を認め、Rac1が再生開始機構において重要な役割を果たしていることが示唆されている。また、この現象のメカニズムをin vitroで検討するために、現在、肝臓由来細胞の初代培養系においてメカニカルストレスによる細胞増殖およびシグナル伝達への影響を観察し、Rac1の関与を調査中である。
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