研究概要 |
平成12年度のこれまでの研究実績は、大きく3つのプロジェクトとしての成果に分けられる。すなわち、1)胃癌のリンパ節転移陰性(HE染色)例における微小転移の実態とその予測に関する研究、2)消化器癌におけるSentinel Nodeの微小転移の実態とその有効性に関する研究、3)リンパ節高転移株、低転移株の接着浸潤能に関する研究、である。 1)胃癌のリンパ節転移陰性(HE染色)例における微小転移の実態とその予測に関する研究:67例の胃癌患者から得られた、通常の組織学的診断法(HE染色)にて転移陰性の診断された1761個のリンパ節の微小転移について検索した。対象症例はT1(早期胃癌)33例、T234例である。検索はanti-cytokeratin AE1/AE3 monoclonal antibodyを用いた。その結果、T1症例33例中18%に、T2症例34例中24%と比較的高い頻度に微小転移が認められ、其の予後は不良であった。また、対象リンパ節1761個の1.5%に微小転移が認められた。接着因子の1つであるE-カドヘリンの発現を術前の生検材料を用いて検索した結果、微小転移を有する症例においてはその発現が減少していた。すなわち、組織学的に転移陰性と診断されるリンパ節にも微小転移が存在すること、その予測に生検材料におけるE-カドヘリンの発現の有無が有用であること報告した(Anal of Surgical Oncology,2001)。さらに食道癌患者においては、VEGF-C(vascular endothelial growth factor-C)の発現がリンパ節転移と関連する事を、新鮮材料を用いてのWestern Blot法ならびに免疫組織染色にて確認し学会(第55回日本消化器外科学会、第100回日本外科学会)にて発表するとともに.現在微小転移との関係について検討中である。 2)消化器癌におけるSentinel Nodeの微小転移の実態とその有効性に関する研究これまで消化器癌臨床例においていて、Radio Isotopeならびに色素を用いたSentinel Nodeの解析を行いその結果を報告(CancerLet;2000、消化器外科;23)してきた。また同定されたSentinel Nodeの微小転移の実熊について検討し、その実態を明らかにしつつある。現在までに術中に45分以内に正確にその存在を診断する分子生物学的手法を確立し、臨床に応用しているところである。現在、トレーサーの種類、投与方法などを中心に、Sentinel Nodeの微小転移の検出感度を含め検討し、その成果を学会(AGA;2000,SNNS;2001,第24回日本リンパ学会)に発表してきた。さらには消化器癌における各臓器別の臓器特異性やリンパ流との関連性を検討中である。 3)微小転移の成立機序に関する研究:微小転移の着床について局所免疫の立場から免疫応答細胞樹状細胞ならびにNatural Killer細胞との関連性について興味ある知見を得て報告(Cancer;2000,Cancer Let;2000)してきた。さらに、 リンパ節高転移株の細胞運動能、細胞外基質分解能について、サイトフルオロメーターを用いてChemotaxisis assayならびにFluorometric invasion assayを用いて検討中である。また、TP(Tymidine Phosphorylase)の関与についても検討中である。前者に関しては、高転移株においては細胞運動能、細胞外基質分解能ともに亢進していることを確認し発表(Cancer Research,2000)しているが、現在までのところTP発現との関係は明らかなpositive dataは得られていない。 以上が、平成12年度の研究成果の概要であるが、引き続き計画に従い、微小転移の実態と転移としての意義の解析ならびに微小転移の成立機序に関する研究、解析を進めているところである。
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