研究概要 |
心房細動は冠動脈バイパス術後に見られる不整脈の中で最も多い不整脈である.これまでの胸骨正中切開,人工心肺を使用し,心停止下に行う手術では心房細動は20〜40%に見られると報告されてきた.原因として脱血管挿入,体外循環,心筋保穫が考えられてきた.今回取り上げたMIDCAB,OPCAは冠動脈バイパスを体外循環無しで心拍動下に行うため低侵襲であり様々な長所が期待された.1)我々の施設における低侵襲冠動脈バイパス手術の早期手術成績は死亡率0.4%,合併症としての脳梗塞1.2%と良好であった.問題とされる術直後の心房細動は全体で27%に見られた.本来MIDCABは左前下行枝を目標とした左開胸による小切開手術として開発されたが,我々は胸骨下切開の併用,開胸線の延長により右冠動脈と左回旋枝を目標はとした多枝バイパス手術を行ってきた.また最近では胸骨正中切開によるOPCABを第1選択として積極的に症例数の増加を図っている.2)冠動脈バイパス後の心房細動の病態を理解する上で電気生理学的検討は重要である.このため我々は新しい電気生理学的手段として心電図f波の波形解析する定量的方法の開発を進めている.本法は体表面心電図V1誘導f波の周波数解析から心内心房細動の変化を推定する方法で,MIDCAB,OPCABの術後に生ずる心房細動の病態の指標となる可能性もあり有望と思われる.なお,体表面心電図V1誘導を1K HzサンプリングでA-D変換しQRS波の加算平均心電図からテンプレートを作成し,これを利用しQRS波成分を除きf波をFFT解析し最大パワーを求めている.3)冠動脈吻合前後に心表面マッヒングを行い虚血が心筋に与える影響を電気生理学的に検討した.心筋の走行によって生ずる縦,横方向の伝導速度を測定し異方向性の変化を調べた.プレコンデショニングのみでは吻合時の虚血が問題となる症例がありかかる症例ではシャントチューブによる潅流が安全と思われた.
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