研究概要 |
我々はこれまでヒトクロム肺癌について,p53の特異的な異常,マイクロサテライト不安定性が高頻度に存在すること,修復遺伝子蛋白hMLH1の発現が低下していることを報告してきた.中枢性肺扁平上皮癌の発生機序を解明するために,ラットの気管支にクロム酸塩を曝露させて肺癌を発生させることを試みた.生後6.12週の雄のJcl Wisterラット15匹を用い,ネンブタール麻酔後,気管切開を施しクロム酸塩(クロム酸ストロンチウム)のベレットをKuschner等のの手法に則って気管支腔内に留置した,ベレット貿置後9ヶ月経過した個体を犠死させ,ベレットが貿置していた部分を中心に気管支の変化を観察した.得られた病変は扁平上皮癌(気管支上皮下を浸潤性に増殖する腫瘍細胞)15例中1例(7%),異形成または上皮内癌(核異型の強い細胞は上皮層内に限局し基底膜を越えない)15例中7例(47%),扁平上皮化生(扁平上皮層の基底膜上で正常気管支上皮を置換)15例中8例(53%),杯細胞過形成(肥厚した線毛円柱上皮で軽度の炎症を示す)15例中1例(33%)またベレット留置側と反対側の気管支は全例で多列線毛上皮を示し正常であった.更にクロムの蓄積量をX線分析顕微鏡(XGT-2700,HORIBA,京都)により測定し病変の強さと対比した.正常上皮(n=24)0,500±1,354S.D.(×1000cps),杯細胞過形成(n=14)0,713±1,062,扁平上皮化生(n=8)0,941±1,328,呉形成または上皮内癌(n=5)5,400±5,320,扁平上皮癌(n=4)1,150±1,493,異形成,扁平上皮癌病変におけるクロム蓄積量は正常気管支上皮,杯細胞過形成病変のそれに比べ,有意に高値であった。
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