研究概要 |
聴覚は重要な感覚系の一つであるが、その中でも蝸牛神経は外力に対して特に脆弱である。このことは、交通事故や労災事故後の難聴の発生として経験される。特に、脳神経外科領域における小脳橋角部手術操作においては、蝸牛神経が直接術野内において手術侵襲を受けることがしばしばある。このようなことから、聴力温存を目的として聴性脳幹反応の術中モニタリングが行われてきた。 術中の聴性脳幹反応の変化所見から、蝸牛神経に対して負荷されている外力の程度を推察し、蝸牛神経障害が蝸牛神経の外力に対する耐性限界を越えることを防止しうることが経験的に知られてきた。そして、この目的のために、聴性脳幹反応変化の「潜時延長」が判断基準として用いられてきた。すなわち、聴性脳幹反応V波の潜時延長が、1.0から1.5msec程度を越えると術中の警告が発せられるのが通常であった。しかしながら、従来の聴性脳幹反応の判断基準からは、「振幅」の概念が除外されていた。 これに対して、我々が今回の科研費によって行った研究は、聴性脳幹反応判断基準における振幅異常の位置づけであった。その結果、従来の可逆性潜時延長例の中には、蝸牛神経にaxonal injuryを生じている例があることが、β-amyloid precursor protein(β-APP)による免疫染色によって実験的証明された。このことは、聴性脳幹反応の術中変化を潜時所見のみによって判断するとき、蝸牛神経を見逃す可能性があることを示している。現在、この結果を投稿中である(Sekiya T, Suzuki S, et al. : Axonal Injury in Auditory Nerve in Reversible Latency Changes of Brainstem Auditory Evoked Responses(BAER) : An Insight into Intraoperative BAER Alterations. J Neurosurg, 投稿中)。
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