研究概要 |
脳血管を標的とした髄腔内投与遺伝子治療のdrug delivery systemとして,リポソームベクターとハイドロゲル・ポリマーの安全性と有用性を検討した. リポソームベクターの検討で使用したリポソームはcationic lipidを用いた.ラット培養平滑筋細胞を用いcationic lipidの濃度別に培養を行った所,80μM以上の濃度では細胞障害性がみられた.そこで以下の実験を40μMの濃度中で行った.βガラクトシダーゼプラスミドベクターとcationic lipidの複合体を作製し,これを培養液中に混入し培養を行ったところ,βガラクトシダーゼプラスミドベクター単独に比べ約8倍の細胞内導入が得られた.次にラット髄腔内にβガラクトシダーゼプラスミドベクターとcationic lipidの複合体を大槽穿刺下に注入し,経時的に脳底動脈への導入効率を検索した.この結果8日後までは導入効果が得られ,14日後には減弱した.このことからcationic lipidをベクターとした遺伝子治療は1週間程度の急性期疾患を対象としては良好なdrug delivery systemといえることが示された. ハイドロゲル・ポリマーを用い遺伝子導入の長期持続性が得られるかを検討した.安全性の確認のため,手術用顕微鏡下にウサギ中大脳動脈にハイドロゲル・ポリマーを塗布し,経時的に脳の組織学的検索を行ったが,中大脳動脈およびその周囲の脳に異常は認めなかった.ルシフェラーゼDNAをハイドロゲル・ポリマーに混合し,ウサギ中大脳動脈周囲に塗布し,経時的に中大脳動脈を摘出し検討した.塗布2週,1ヶ月後には十分な遺伝子導入が認められたが,2ヶ月後には減少,3ヶ月後には測定不能となった.以上からハイドロゲル・ポリマーによる遺伝子導入は1〜2ヶ月までは期待できることが示された.
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