研究概要 |
1992年にOldfield博士らによって初めて実施された悪性グリオーマの遺伝子治療は、僅かばかりの抗腫瘍効果を認めたと報告されている(Ram Z, et al.:Nature Med, 1997)。彼らは、SV40プロモーターを用いた非特異的レトロウイルスベクター産生(マウス)細胞を患者の脳内に直接移植しており、異種移植免疫反応や正常分裂細胞・組織に重篤な副作用が生じる可能性を有するものであった。それゆえ我々は、ミエリン塩基性蛋白(MBP)遺伝子発現プロモーターで自殺遺伝子(HTK [herpes simplex virus thymidine kinase]遺伝子)を制御した脳特異的レトロウイルスベクターを用いた基礎的実験を繰り返してきた(J Neurgsci Res 36,1993)。そして、Polyoma ori発現遺伝子をレトロウイルス産生パッケージング細胞に導入することで高力価ベクターを入手し(Hum Gene Ther 9,1998)、米国で手法特許も取得している。この高力価濃縮レトロウイルスベクターを用いた遺伝子治療にて、マウスグリオーマモデルが完治しうることも実証した(Gene Ther 5,1998;Gene Ther 8,2001;Human Cell 14,2001)。 現在、このベクターに対するコモンマーモセットを用いた安全性試験を準備中である。また、各グリオーマにおけるMBP遺伝子発現に差を有するので、悪性グリオーマ普遍的発現遺伝子をSAGE(Serial analysis of gene expression)法を用いて検索し、MAGE-E1遺伝子を同定した(Cancer Res 61,2001;Gene 277,2001)。このMAGE-E1遺伝子のプロモーター領域を確定し、新たなグリオーマ特異的レトロウイルスベクターの開発にも着手している。
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