研究概要 |
脳虚血と脳出血に対する脳低温療法の効果をラットにおいて用いて検討した。まず120分の局所脳虚血(中大脳動脈閉塞)モデルを作成した。脳虚血90分後より開始し再潅流後22時間脳低温療法(4時間33℃にコントロールしその後低温室で飼育)を持続したラットは,同様にモデルを作成後37℃の常温でコントロールし室温で飼育したラットに比較し有意に虚血24時間後の脳梗塞体積の縮小を認めた(脳低温群:105±39mm^3,常温群:254±28mm^3)(p<0.05)。同時に測定した損傷脳への多核白血球の浸潤が有意に脳低温群で減少し,その原因として代表的な炎症性サイトカインであるインターロイキン1βの蛋白発現と血管内接着因子であるintercellular adhesion molecule-1(ICAM-1)のmRNA発現の抑制を確認した。つまり虚血性脳損傷に対する脳低温療法の保護効果として炎症反応の抑制が重要であることが示された。更に実験的脳出血モデルとして脳内(基底核部)に10単位のトロンビンを注入しその24時間後に発生する脳浮腫を脳低温療法が有意に抑制することを確認した(脳水分量,脳低温群:84.3±0.2%,常温群:82.4±0.1%)(p<0.01)。同時にEvans-blueを用いて測定した血液脳関門の破綻が脳低温群で有意に抑制され,また多核白血球の浸潤が有意に軽減したことを確認した。つまり脳出血モデルに於いても脳低温療法は炎症反応を抑制し,血液脳関門を保護することにより脳損傷を軽減することが示された。これらの結果は今後,各種病態の臨床例に於いて低体温療法を導入する場合の有効性の重要な指標が炎症反応の抑制であることを示しており重要な所見であると考えられる。
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