脳損傷に対する軽度低体温の神経細胞保護効果(学習・機能障害)の基礎・臨床的研究

2001 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 12470291
• 研究機関: 香川医科大学
• 研究代表者: 長尾 省吾 香川医科大学, 医学部, 教授 (60100947)
• 研究分担者: 河井 信行 香川医科大学, 医学部・附属病院, 講師 (40294756)
• キーワード: 低体温療法 / 機能障害 / 重症脳損傷

研究概要

臨床において、重症頭部外傷に対する低体温療法の有効性が報告されているが、長期的な効果に関しては不明な点が多い。本研究では虚血脳損傷モデルを用いて、低体温治療後の慢性期での細胞傷害の進展について検討してきた。方法は、砂ネズミに5分間の前脳虚血を行い、その直後より32C、4時間の低体温を施行した。実験群は、低体温後1週間で評価した群、低体温後1ヵ月で評価した群、低体温後の治療としてNMDA受容体拮抗剤(MK-801)を1ヵ月間投与した群、以上3群に分類した。評価方法として組織学的検討(海馬領域のHE染色、TUNEL染色、免疫組織化学染色)、電気生理学的検討(海馬スライスの興奮性シナプス後電位および長期増強)を行った。結果は、組織学的検討ではHE染色において低体温後1週間で傷害はみられなかったが、1ヵ月ではCA1領域で約30%の細胞数の減少を認めた(p<0.01)。また低体温後にMK-801を投与した群では細胞数の減少はみられなかった。TUNEL染色では、低体温後1ヵ月の群にCA1領域で陽性細胞を認めた。NMDA受容体の免疫組織化学染色において、低体温後1週間の群で染色性の増強がみられた。電気生理学的検討では低体温後1週間で興奮性シナプス後電位および長期増強の抑制がみられた。今回の検討から、HE染色上正常とみられた1週間の時点で、免疫組織化学染色および電気生理学的にすでに変化がみられ、さらに低体温後の治療としてMK-801の有効性を確認した。以上より、低体温により急性期での細胞傷害は免れるものの、NMDA受容体の変化が早期より発生し、この変化が虚血病態における低体温後慢性期での細胞傷害のメカニズムに関与している可能性が示唆された。また、臨床においても、低体温療法施行した重症頭部外傷患者で検査可能な予後良好例において、高次機能検査を経時的に施行し検討中である。

研究成果

• [文献書誌] T.Nakamura, O.Miyamoto, N.Kawai, T.Negi, T.Itano, S.Nagao: "The long-term activation of glutamatergic system associated with NMDA receptor following post-isehemic hypothermia in gerbils"Neurosurgery. 49. 706-714 (2001)
• [文献書誌] S.Nagao, K.Irie, N.Kawai, T.Ogawa, T.Nakamura, M.Okauchi: "Protective effect of mild hypothermia on symptomatic vasospasm : A preliminary report"Acta Neurochir(Wein)suppl. 76. 547-550 (2000)
• [文献書誌] 中村丈洋, 宮本 修, 山神眞一, 岡内正信, 河井信行, 板野俊文, 長尾省吾: "実験的脳挫傷モデルにおける低体温およびマンニトールによる抗浮腫効果の検討:脳浮腫・頭蓋内圧研究会報告集"脳浮腫・頭蓋内圧研究会報告集3, 15-20, 2001. 3. 15-20 (2001)
• [文献書誌] 中村丈, 山下史朗, 岡内正信, 河井信行, 國塩勝三, 長尾省吾, 宮本 修, 板野俊文: "実験的頭部外傷後における神経再生の可能性-組織学的および神経行動学的検討-"神経外傷. 24. 8-62 (2001)
• [文献書誌] N.Kawai, T.Nakamura, M.Okauchi, S.Nagao: "Effects of hypothermia on intracranial hemodynamics and isehernic brain damage-studies in the rat acute subdural hematorna model"Acta Neurochir(Wein)suppl. 76. 529-533 (2000)
• [文献書誌] N.Kawai, T.Nakamura, M.Okauchi, S.Nagao: "Effects of hypothermia on thrombin-induced brain edema formation"Brain Research. 895. 50-58 (2001)