研究概要 |
我々は現在まで各種の脳損傷モデルにおいて脳低温療法が血液脳関門の破綻を抑制することにより脳損傷を軽減することを報告してきた。脳低温療法が血液脳関門破綻を抑制するメカニズムについては依然明らかにされていない。そのメカニズムを明らかにする目的で、蛋白分解酵素の一つであるmatrix metalloproteinases (MMPs)に着目した。今回、凍結脳損傷作成後に導入した脳低温療法がMMPsの発現、血液脳関門破綻と脳浮腫形成に影響を与えるかどうかを検討した。ラットを用いて、凍結脳損傷作成後2%エバンスブルー(EB,1ml/kg)を静脈内投与し,その後常温群(37℃)と脳低温群(35℃)に分けた。4時間後,損傷中心部の組織を摘出して3分割し,血液脳関門の破綻はEBの漏出で,MMPsのmRNA発現をRT-PCR法で,またMMPs蛋白レベルはzymography法により検討した。また一部のラットは,損傷作成24時間後に断頭し脳浮腫の形成を乾燥重量法により測定した。実験の結果、凍結脳損傷作成24時間後の脳水分量は,常温群に比較して脳低温群で有意に低値であった。一方凍結脳損傷作成4時間後のEB漏出は脳低温群で減少する傾向を認めた。またMMPsのmRNA発現は,脳低温群で特にMMP9の発現抑制が認められた。またZymographyを用いた検討では,脳低温群でMMP蛋白レベル(活性)が低下する傾向を認めた。今回の実験で、凍結脳損傷モデルにおいて,損傷作成後より導入した脳低温療法は脳浮腫を軽減し,その作用機序としてMMPsの発現を抑制することにより血液脳関門破綻が軽減されたことが推測された。今回の検討は、単に脳低温療法の脳保護メカニズムの一つを明らかにしたのみではなく、MMPsの発現と活性を抑制することによる新たな脳浮腫の治療の可能性を示すものとして重要な所見である。
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