本研究では、細胞側の受容体分子との吸着を担うファイバーに変異を導入することによって、グリオーマ細胞に感染効率が高い「がん標的化ウイルスベクター」を新規に作成することを目的とする。当期間中は当研究グループによって樹立された、TAAペプチドモチーフを持つF/TAAウイルスに関して、in vitro並びにin vivo動物実験によって標的化が可能かどうかについて詳細な解析を行った。 まず、Ad5本来の受容体であるCARと結合しないAd40の短いファイバーを有するキメラアデノウイルスベクターF40Sをベースとして用いることにより、in vivoでの腫瘍組織への選択性の向上を目指した。マウス静脈内投与によるウイルスの取り込みの臓器別分布を調べたところ、従来のヒト5型アデノウイルスF/wtは、肺・心臓・脾臓・腎臓・腸管などにはほとんど取り込まれず、肝臓にきわめて高い取り込みを示すのに対して、Adv-F40Sは肝臓への取り込みは従来型の50分の1以下と低かった。Adv-F40S自体は、マウスの肺・心臓・脾臓・腎臓・腸管など肝臓以外の組織に対しても親和性を示さず、また、大腸癌、メラノーマなどの担癌マウスの腫瘍組織に対してもin vivoでの親和性はなかった。Adv-F40Sをベースとして、NG2糖タンパクと特異的に結合するTAASGVRSMHの10アミノ酸のペプチドリガンド(以下TAAと略す)と組み合わせたF40S/TAAウイルスを用いることにより、悪性黒色腫、悪性脳腫瘍などの皮下腫瘍モデルに対して、効率の高さに加えて選択性の高い遺伝子導入に成功した。経静脈的に投与したウイルスは、肝臓などの正常組織への非特異的吸着は極めて少なく、多くはNG2陽性腫瘍塊の血管様間質組織に特異的に集積していた。現在臨床への応用を目指して各種ベクターを作成し、安全性の評価を進めている。
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