研究概要 |
本研究は研究者らが独自に開発したin situ凍結処理法を使用し、また種々の動物モデルを用いて、前十字靭帯および膝蓋腱組織の再構築現象をコラゲンの産生・代謝とそのサイトカインによる制御の見地から生体力学的および分子生物学的に解明した。重要な成果を列挙すると以下のようになる。 (1)内在性細胞壊死自体は少なくとも6週間は膝蓋腱の力学特性に有意の影響を及ぼさない。侵入した外在性細胞が膝蓋腱マトリクスの力学特性を有意に低下させる。さらに除負荷も過負荷も凍結処理前十字靭帯ACLの力学的特性を有意に低下させる。(2)凍結解凍処理腱ではIII型procollagen mRNAの発現量は有意に高値を示す.さらに浸潤線維芽細胞周囲にIII型collagenの発現が蛋白レベルで認められる。(3)IL-1βおよびPDGF投与は外来性線維芽細胞のコラゲナーゼmRNA発現を亢進させる。一方,TGF-β投与は発現を抑制する。(4)除負荷は膝蓋腱の力学的特性の低下と共に線維芽細胞におけるIL-1βとTGF-βの過剰発現をもたらす。(5)Time-0での少量のEGFおよびTGF-βとfibrinの混合投与は,凍結処理ACLの力学的特性の低下を有意に防止する。また処理後3週目投与では有効だが、6週目の投与では無効である。また大量投与は無効である。(6)TGF-β投与は損傷ACLの力学的特性を改善する。しかしPDGF-BBは有意の効果を示さなかった。 本研究は腱・靭帯組織再構築の制御機構を生体工学および分子生物学的の両面から統合的に解析する新しい方法を確立した。さらに臨床的見地において、本研究は自家移植した腱・靭帯組織に不可避的に起こる力学的特性の経時的劣化という問題点をIn vivoにおいて人為的に制御できる原理を示すものであり,これらの組織の外科的治療分野に遺伝子治療や組織工学的治療を導入する道を開くことが期待された。
|