これまで軟骨肉腫の遺伝子治療について動物実験モデルを使用して実施してきた。その結果、軟骨肉腫を皮下に移植したマウスにおいて自殺遺伝子の局所注入と抗ウイルス剤の腹腔内投与で腫瘍の増殖が著しく抑制されることを示してきた。 本年度は自殺遺伝子の細胞死巻き添え効果を検討するため、コラーゲンゲル内3次元培養法を用いて実験を行った。3次元軟骨細胞培養系は生体の軟骨腫瘍組織を模倣しているものであることが形態学的検索や生化学的解析で示された.これらの培養系での軟骨細胞間の接着は軟骨細胞より伸びる細胞突起で相互に連結していることが明らかとなった。この機構は特殊な様式のgap junctionであると考えられ物質の移動が可能と考えられた。この培養系で自殺遺伝子導入軟骨細胞は抗ウイルス剤の投与により死滅することが明らかになった。自殺遺伝子非導入細胞も抗ウイルス剤の投与により死滅することが認められ巻き添え効果が明確となった。さらにこれらの効果はTrailの追加投与により増幅されることも示された。 本研究の成果により外科的切除術しか有効な治療法が存在しない体幹部軟骨肉腫の治療において、新しい方法としての遺伝子治療の方法が実験的に確立された。今後、これらの研究成果を踏まえ臨床応用の具体的方法論を検討していく必要がある。軟骨肉腫遺伝子治療の有効性の証明は治療成績の飛躍的向上に結びつく可能性があり、今後の研究の発展が大いに期待される。
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