低酸素暴露肺高血圧は肺血管の収縮による肺動脈圧の上昇が、肺血管内皮細胞や肺血管平滑筋の肥大・増生に先行する肺高血圧である。1/2気圧低酸素暴露を自作の低酸素暴露チャンバーにて10日間施行し、慢性低酸素暴露肺高血圧モデルを作成した。肺高血圧動物における肺動脈圧上昇に、実際、in vivoでカルシウム感受性亢進が関与しているかを検討するため、Rhoキナーゼの阻害薬(Y-27632)を肺高血圧ラットに経口投与し投与後、1、2、3、5、7、24時間後、覚醒下で、大動脈圧、肺動脈圧を経時的に記録した。ラットの肺動脈圧測定は、麻酔下で、右外頚静脈から肺動脈へ特殊なシリコンカテーテルを留置し、24〜48時間後に完全覚醒下で測定した。結果としてRhoキナーゼの阻害薬は肺高血圧ラットの肺動脈圧を低下させた。Rhoキナーゼ(カルシウム感受性増強作用を持つ)の阻害剤が正常ラットの血圧は下げず、高血圧ラットの血圧を下げることが報告されている。これは、正常ではカルシウム感受性は血管緊張に影響を与えていないが、高血圧の病態にカルシウム感受性の亢進が関与していることを示している。肺高血圧においても同様のカルシウム感受性亢進が存在すると推定できる。更に、今後の研究の予備実験として、肺高血圧の発生過程、すなわち10日間低酸素暴露期間中にY-27632を定期投与し、肺動脈圧の上昇と肺高血圧血管病変の発生が抑制されるか検討したところ、Rhoキナーゼの阻害薬であるY-27632は肺高血圧血管病変の発生を抑制しなかった。短期的に肺動脈圧を下げるが、血管病変の発生にはカルシウム感受性の亢進は関与していないかもしれない。しかし、少なくとも他のRhoキナーゼの阻害薬を検討する必要があろう。
|