研究概要 |
ゴナドトロピン放出因子(GnRH)アナログはGnRH受容体陽性腫瘍に作用し,アポトーシスを惹起する。しかし,これらの腫瘍では,GnRH様ペプチドも産生されていることが知られている。本年度は,腫瘍細胞増殖に関与するGnRHの産生・分解機構を再検討し,オートクリン増殖調節機構の解明を試みた。手術的に摘出した卵巣癌・子宮内膜癌組織のGnRH受容体をスクリーニングし,陽性細胞を初代培養に供した。GnRHの分解産物は薄層クロマトグラフィーおよび高速液体クロマトグラフィーで分析した。その結果,I)腫瘍組織・細胞では正常組織・細胞に比べ,優位に組織・細胞内GnRH濃度が亢進していること,ii)卵巣癌細胞はGnRHを(1-5)GnRHと(6-10)GnRHに分解する加水分解酵素を有していること,iii)その酵素活性は形質膜に存在すること,iv)卵巣癌細胞を予めGnRHアナログで活性化すると,形質膜のGnRH分解活性が1.5倍に亢進することが明らかになった。つまり,1)腫瘍組織内ではGnRHの産生・分解系が高まっていること,2)癌細胞のGnRH受容体が活性化されると,GnRHを介した細胞増殖のオートクリン調節機構が破綻することが示唆された。GnRH刺激に伴うこのGnRH代謝障害が,GnRH受容体の抗増殖シグナルに関与しているのかもしれない。 ペプチド分解酵素は細胞質にも存在するため,GnRH刺激に伴って形質膜への結合が促進されることが推測される。予備実験から,GnRH刺激に伴ってペプチド分解酵素再分布が生じることが示された。
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