研究概要 |
臨床的に難治の遷延性角膜上皮欠損の多くの症例は,角膜知覚が低下した症例であり,角膜上皮創傷治癒過程における知覚神経系の重要性が示唆されている。先に我々は,substance PとIGF-1が角膜上皮創傷治癒を促進すること,神経麻痺性角膜症における遷延性角膜上皮欠損の治療にsubstance P+IGF-1点眼が有効であることを明らかにした。本研究は,これらの因子が角膜上皮の創傷治癒にどのような機序で作用を発現するのかを分子生物学的に細胞内信号伝達系の活性化を観察すること,さらに臨床的に経験する角膜知覚低下症例での角膜実質の融解(神経麻痺性角膜潰瘍)の発症機序にこれらの神経伝達物質や生体活性物質がどのように関与しているかを明らかにすることを目的とする。本年度は下記について明らかとなった。 1)DNA chipを用いて,培養ヒト角膜上皮細胞にsubstance P+IGF-1を添加して培養した時に発現の変動する遺伝子の検索を行った。その結果,substance P+IGF-1の刺激により数十個の遺伝子の発現が変動した。現在,結果の再現性を確認中である。また,得られた結果から,real-time PCR法を用いて,より詳細に遺伝子発現のメカニズムを解析中である。 2)家兎角膜組織培養系を用いて,substance P+IGF-1による刺激がどのような細胞内信号伝達系を介しているかを種々の阻害剤の存在下で角膜上皮の伸長を指標に検討した。その結果,substance P+IGF-1による角膜上皮伸長促進作用には,protein kinase C, tyrosine kinase, phosphoinositide 3-kinase, p38 mitogen-activated protein kinaseが関与していることが明らかとなった。 3)家兎由来の角膜実質細胞と多核白血球をコラーゲンゲル内で共培養すると,角膜実質細胞によるコラーゲン分解が亢進することが明らかとなった。共培養によるコラーゲン分解はIL-1受容体アンタゴニストで抑制されることが明らかとなった。また現在,角膜上皮細胞と実質細胞の共培養によるコラーゲン分解への影響,およびsubstance P, IGF-1の作用を検討中である。
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