研究概要 |
昨年度は,培養ミュラー細胞を用いて,種々の神経栄養因子およびその高親和性受容体の遺伝子発現をRT-PCRを用いて調べた。その結果,ミュラー細胞は神経栄養因子であるNGF,BDNF,NT-3およびその高親和性受容体であるtrkB, trkCの遺伝子発現がみられた。本年度は糖尿病網膜症の病態に関与する種々の因子のうち,インスリン様増殖因子,肝細胞増殖因子,レニンアンギオテンシン系の諸因子(レニン,アンギオテンシノーゲン,ACE,アンギオテンシンタイプ1受容体)の遺伝子発現をRT・PCRを用いて調べた。その結果,培養ヒトミュラー細胞はIGF-1, HGF,レニン,アンギオテンシノーゲン,ACE,アンギオテンシンタイプ1受容体のすべてを発現していた。また,増殖糖尿病網膜症の硝子体手術中に得られた硝子体液中には,IGF-1,HGF, ACE,アンギオテンシン2が,コントロールの黄斑円孔に比較して有意に高濃度認められた。 このことより,これらの諸因子がミュラー細胞を介して増殖糖尿病網膜症の病態に深く関与している可能性が示唆された。また,IGF-1とHGFはいずれも血管新生作用に加えて神経保護作用も有するので,ミュラー細胞における神経保護作用に関与している可能性も考えられる。今後は家兎眼による虚血再灌流モデルを作成し,このモデルの硝子体腔内に神経栄養因子を注入することで,神経節細胞層の障害の状態をコントロールと比較検討する。将来的に神経栄養因子が網膜虚血性疾患に対する薬剤となりうるかを検討する予定てある。
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