研究概要 |
歯科保存学的臨床歯科医学の観点から,歯髄疾患に伴い患者に認められる種々の疼痛の根底に存在する病態生理学的機構を明らかにする為に,「臨床心理学的研究及び臨床歯科治療学的研究」と「実験的歯髄炎に伴う基礎的研究」とを有機的に融合させて実施した。 歯髄炎や根尖性歯周炎と臨床的に診断された患者の訴えている痛みの性状を日本語版マギル質問表で捕らえかつ患者自身の心理学的苦痛の程度をAVS法などを用いて調査的研究を行った。また,歯内治療学的に加療した前後においてその変化がどう変わるか比較検討することを試みた。現在もこの調査研究は続行中であり,臨床症例が揃ったところで統計学的検討を加える予定である。 mustard oilを適応し化学的歯髄炎を実験動物において惹起させた際の中枢神経系のニューロンの応答性の変化を神経生理学的あるいは神経薬理学的に解析したところ,頭頚部に受容野を持つ三叉神経延髄後角あるいは脳幹網様体内の歯髄駆動ニューロンの応答性は,それぞれ異なった傾向の中枢性過敏化の様相を呈した。特に,脳幹網様体内の歯髄駆動ニューロン群は,侵害性化学的条件刺激を歯髄に加えた後の試験刺激に対する応答性において著しい経時的増強性を示した。また,オピオイド受容体の拮抗薬ナロキソンの静脈内全身投与により,その応答性の有意な増強性を示した。この歯髄刺激に対する応答性の増加は,三叉神経延髄後角内のニューロンのそれよりも統計学的に有意に大きかった。脳幹網様体には中枢神経系の様々な核からの線維連絡が存在し,特に痛みの内側投射系に関与しているといわれ,痛みの情動的側面に関与している可能性が示唆されており,上述の歯痛の心理学的考察と考え合わせると本結果は興味深いものである。
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