研究概要 |
本科研補助金により、正常時または歯の切削刺激後の歯髄における一酸化窒素合成酵素(Nitric Oxide Synthetases, NOSs)、特に血管型NOS(endothelial NOS, eNOS)および誘導型NOS(inducible NOS, iNOS)、ならびにiNOS遺伝子の転写に関与する転写因子のNF-κBの発現状態の変化を免疫組織化学的に検索をおこなった。正常歯髄象牙質/歯髄界面ではeNOSおよびiNOSの発現は象牙芽細胞ではほとんど認められなかった。NF-κBに関しては象牙質/歯髄界面における象牙芽細胞の細胞質のみにその強い発現が観察された。臼歯切削モデルにおける歯髄内細胞の変化ならびにeNOSおよびiNOS、NF-κBの発現変化を検索した。上顎臼歯近心面切削後2日目における窩洞直下象牙質/歯髄界面では、非切削象牙質/歯髄界面と比較して、大型の細胞が再配列し、活発な修復象牙質の開始が認められた。またこの部分には好中球の浸潤も観察された。11日後では、顕著な修復象牙質の形成が生じていた。切削後2日目における窩洞直下歯髄界面におけるeNOSの局在は再配列細胞(象牙芽細胞)に強く認められ、iNOSはこの細胞ならびに並列して存在する円形細胞にも認められた。また界面直下に浸潤した好中球にもその発現が認められた。NF-κB陽性免疫反応は歯髄全体に観察された。これらの免疫反応性は状態と比較して強く認められた。したがって、切削刺激により象牙芽細胞において大量のNO産生が推測され、NOによる細胞機能の賦活化による修復象牙質形成への関与が示唆された。さらに歯髄炎の発症や進行、修復象牙質の形成過程におけるNF-κBによる種々の遺伝子発現の調節の関与が推測される。
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