研究概要 |
4年計画の初年度にあたる本年度は、20歳代の健常者80名を対象に、問診票(顎関節症の有無、既往、生活習慣、健康調査、口腔悪習癖、嗜好等)による調査、口腔内所見(欠損状態、咬合状態、歯列不正、開口量測定等)、心理テスト(CMI,SDS,MAS,Y-G,INV,TEG,Life Events and Life Changes)、下顎運動測定、咀嚼筋筋電図検査、咬筋圧痛閾値測定を行った。 本研究では5年間の自然経過を追う予定であるが、以前から収集していたデータを元に、追跡期間の中間となる2.5年経過時の59人のデータも本年度に収集できた。この59人の中で、初年度に顎関節症状を認めたものは5名、2.5年後に新たに顎関節症状を訴えた者が11名であった。有病率が約20%と他の報告とほぼ同じ頻度であり、調査対象が一般集団を反映したものであるとみなして差し支えないことが示された。問診票の結果から、新たに顎関節症状が出現した者では、外傷の既往が関与していた傾向が窺えた。 初年度および2.5年経過時の2回にわたり下顎運動測定を行った27名に対して、切歯点および左右顆頭点の移動量に関する経年的変化を比較すると、新たに顎関節症状を認めた5名は、2.5年後で顆頭移動量が有意に減少し、特に顎関節痛を訴えた1名は信頼区間から逸脱する値を示した。 調査対象者数および経過年がまだ十分でないことから、現段階で確固たる結論を述べることはできないが、健常者の自然経過を追う前向き調査を行うための調査体制を確立し、分析方法に目処をつけることができたことが本年度の成果といえよう。 次年度以降さらに調査を進め、本研究期間中に5年経過時のデータ収集を行う予定であり、収集データを分析結果から、顎関節症発症に関する寄与因子を検索し予防手段を講じる上での根拠となりうる結果を得られることが期待される。
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