研究概要 |
本研究の目的は,口腔扁平上皮癌(SCC)の発生・浸潤・転移等に関与する遺伝子異常を解析し,その結果をSCCの診断に応用し,SCCの治療成績の向上を意図するものである.平成14年度においては,SCCの治療成績に関与する3種類の新しい分子を見出し報告した.その一つはCopper-transporting P-Type Adenosine Triphosphatase(ATP7B)である.ATP7Bは最近シスプラチン耐性に関与していることが報告された.我々は,SCCにおいてATP7Bの発現を検討したところ,SCCにおいて検討した70症例中39症例(56%)においてATP7Bの発現を認め,ATP7B陽性例のシスプラチンを用いた癌化学療法の奏効率は,陰性例に比較し有意に低下し,しかも,患者の治療成績もATP7B陽性例が,陰性例に比較し有意に不良であることが明らかとなった.もう一つの分子は,Uridine Phosphorylase(UPase)である.UPase発現陽性症例は72症例中56症例(77.8%)に認められ,陽性例の所属リンパ節への転移率は,陰性例に比較し有意に高く,Upase陽性例の治療成績も陰性例に比較し有意に不良であった.三つ目はPin1である.Pin1はphosphorylated Ser/Thr-Pro peptide bondsのみを異性化するpeptidyl-prolyl cis-transisomeraseの一つで,最近,乳癌や大腸癌や前立腺癌での過剰発現が報告され,同時にcyclin D1の過剰発現との関連も報告されている.我々は,SCCの細胞株でのPin1のmRNAの発現を確認し,さらに,SCCの組織切片上でのPin1の発現がcyclin D1を相関することを確認した.
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