研究概要 |
ストレス認知や情動発現といった複雑な脳ニューラルネットワーク機構によって形成される高次脳機能への,選択的抗不安薬,選択的鎮静薬,そしてベンゾジアゼピン系薬の影響を,マイクロダイアリシスを用いて,無麻酔・無拘束・自由行動状態の実験動物にストレスを負荷した際,これらの薬物を投与した際の脳内神経伝達物資の動態から検討した. その結果,選択的抗不安薬,選択的鎮静薬,ベンゾジアゼピン系薬が,青斑核-大脳皮質前頭前野ノルエピネフリン神経活動と腹側被蓋野-側坐核ドーパミン神経活動に対して異なる作用を持つことが研究結果から示された.特に,ベンゾジアゼピン系薬が,ストレス状態での青斑核-大脳皮質前頭前野ノルエピネフリン神経活動の亢進と,腹側被蓋野-側坐核ドーパミン神経活動の亢進をいずれも抑制するのに対し,選択的抗不安薬は前者のノルエピネフリン神経活動の亢進のみを抑制し,選択的鎮静薬は後者のドーパミン神経活動の亢進のみを抑制するという知見から,抗不安作用と鎮静作用の選択性に脳内ニューラルネットワークヘの作用の相違が関与していることが明らかとなった. また,選択的抗不安薬と選択的鎮静薬は,ベンゾジアゼピン系薬と異なり,青斑核由来の筋弛緩作用を発現しないことも明らかとなった.選択的抗不安薬や選択的鎮静薬の特徴の一つとして,ベンゾジアゼピン系薬でしばしば臨床的に問題となる舌根沈下や呼吸抑制などの作用が少ないことがあげられるが,その理由の一つとして青斑核由来の筋弛緩作用をこれらの薬物が持たないことがあると考えられた.
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