研究概要 |
本研究ではトポトポイソメラーゼII(トポII)とDNAが切断複合体を形成する時に起こると提唱されているアミノ酸残基間のプロトン移動に着目し,その移動のトラップが阻害剤による酵素触媒作用の阻害様式の一つであることに作業仮説が設定されている. 本年度は研究計画に従い,ヌクレオチド誘導体単独で阻害活性を有するものを設計・合成することに集中した.活性発現に必須の部分構造は予測されているが,例として研究計画に示した合成標的分子がトポII阻害剤として作用する保証は全く期待できない.したがって,今年度は本研究の狙いの一つでもあるヌクレオチド誘導体単独での阻害活性発現の獲得とそれを実現させるための合成基盤であるヌクレオチドの糖部3'への阻害活性発現必須構造の導入が大きなハードルとなる.それを克服するためには可能な限り多くの誘導体の合成が不可欠である.そのために,まず研究計画にある合成経路の検証と改善に努めた.ヌクレオチドの糖部となるように設定した出発物質のキラルな(5S)-(d)-menthyloxy-2(5H)-furanoneは,menthyl基の除去に伴う不具合が予想されたため,menthyl基をTBS基に置き換えた光学活性体をマンニトールから5工程にて収率よく合成した.本物質をMaichael反応受容体としてトポII阻害活性発現必須構造をもつ求核剤と反応させると,1,2_付加体は生成せず高収率で目的とする1,4_付加体のみが予想通りの立体で得られた.この付加体への塩基の導入は容易であることがわかっているので本年度の研究計画はほぼ達成されたことになる.現在,さまざまな求核剤に由来するMaichael付加体のヌクレオシド化と生物活性試験に努めている.誘導体のバリエーションを増やすため,活性発現必須構造とのリンカーとしてマロン酸誘導体を求核剤とする付加体の合成にも成功した。
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