HIVの悪性タンパク質であるTatタンパク質を非常に高い親和性で結合するRNA分子(RNAアプタマー)に関し、Tatタンパク質のアナログ分子との相互作用様式を研究した。Tatタンパク質においてRNAとの結合を担っているのは、アルギニン残基に富んだ10残基程度の部分ペプチド(アルギニンリッチモチーフペプチド)である。そこで最も単純なアナログ分子としてアルギニンアミド分子をまず用いた。次により実際的なアナログ分子としてアルギニンリッチモチーフペプチドを用いた。各々について、RNAアプタマーとの複合体の立体構造を解析・決定した。その結果、Tatタンパク質の異なる2つのアルギニン残基が、RNAアプタマーの2つの結合サイトで、各々独立に、同時に相互作用している事がわかった。これが非常に高い親和性がもたらされるメカニズムである。相互作用の実体は、Tatタンパク質側のアルギニン残基の側鎖とアプタマー側のグアニン塩基との間の水素結合及びスタッキング相互作用である事も同定できた。又これらの相互作用を可能にする空間を造り出す為に、結合に伴いアプタマー側には大きな構造変化が生じる事もわかった。 複合体の立体構造より、高い親和性がもたらされるメカニズムが解明されたのみならず、より高い親和性を有するRNA分子への改変の指針も得られた。また遺伝子治療に応用した際に生じる副作用のより低いRNA分子への改変の指針も得られた。この様に本研究により、合理的なドラッグデザインへの道がひらかれた。
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