本研究では、まず、非2分子膜型脂質ナノ粒子である脂質エマルション(リン脂質単分子膜型ナノ粒子)の表面膜ならびにコア構造が血漿タンパクとの相互作用に及ぼす効果を調査し、動物体内の挙動の制御と医薬品製剤機能に関する基礎的性質を解明した。すなわち、単分子膜型のエマルションは2分子膜型のリポソームに比べ、表面のリン脂質分子がより広い間隙をおいて配置されており、アポリポタンパクapoA-1やapoEなどの血漿アポリポタンパクは後者の場合の約10倍も多く結合した。この結果、エマルションは動物体内の代謝や肝細胞との相互作用がより昂進することも明らかにした。エマルション表面膜のレシチンの一部をスフィンゴミエリンあるいはコレステロールに置換すると、タンパクの結合性や活性が変わり、細胞や動物体内の相互作用も変化することが明らかになった。 次に、両連続性キュビック構造やヘキサゴナル構造を内部に持つ新規水中分散ナノ粒子、キュボソームとヘキソゾームの調製法を確立し、その構造を精査した。また、血漿タンパクとの相互作用を調査し、動物体内挙動の制御と医薬品製剤機能を解明した。すなわち、モノオレイン、ジオレイン、オレイン酸、レシチンの組成により、種々の非2分子膜型液晶構造が生成することを明らかにした。さらに、プルロニック系ポリマー型界面活性剤を用い、これらの液晶を水中に100-200nmの粒子として安定に分散することに成功した。分散粒子(キュボソーム、ヘキソゾーム)の構造をX線小各区散乱やNMR測定に基づき明らかにするとともに、動物血漿成分との相互作用を調査した。アルブミンやHDLはキュボソームやヘキソゾームと強く相互作用し、その崩壊を促進することが示された。これらの成果により、非2分子型粒子の医薬品製剤への利用に対する基礎的知見を得ることができた。
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