研究概要 |
CYP3A7はヒト胎児肝における主要なCYP分子種であり,デヒドロエピアンドロステロン3-硫酸やレチノイン酸などの内因性ホルモンの代謝に関与している.CYP3A7はまた,アフラトキシンB_1などのがん原物質の代謝的活性化にも関与しており,生理学的にもまた毒性学的にもヒト胎児における重要な酵素であると言える.興味深いことに,CYP3A7の発現は出生後徐々に減少し,成人肝においてはほとんど認められなくなる.また,CYP3A7の発現は肺がん発症時に再活性化されるとの報告もある.これらの知見から,CYP3A7の発現を制御する分子機構もまたヒト胎児肝の発生および肝がんの発症に重要な役割を果たしている可能性が推測された.そこで本研究では,ヒト胎児に特異的に発現するCYP3A7遺伝子の発現制御機構を解明することを目的とした.これまで,胎児肝細胞に類似した性質を有するヒト肝がん由来HepG2細胞を用いてCYP3A7遺伝子の発現に必須な転写活牲化領域(3A7κBエンハンサーと命名)を同定してきた.また,3A7κBのエンハンサー活性にはがん抑制タンパク質p53が重要な役割を果たしていることも明らかにしてきた.本年度は,3A7κBエンハンサーがCYP3A7遺伝子の胎児期特異的な発現に関与するか否かをトランスジェニック(Tg)マウスを作成し,in vivoで検討した.3A7κBエンハンサー(4コピー)とニワトリβ-actinプロモーターを緑色蛍光タンパク質(EGFP)レポーター遺伝子に連結したトランスジーンを構築し,Tgマウスを作成した.Tgマウスの胎仔を蛍光観察したところ,肝を含めほぼ全ての組織がEGFP陽性であった.一方,成獣組織を蛍光観察したところ肝や肺などの組織で緑色蛍光の減弱が認められた.抗EGFP抗体を用いたウェスタンブロット分析の結果,肝や肺などの組織では確かにEGFPの発現が成獣では胎仔に比べ低下することが明らかとなった.以上の結果から,3A7κBエンハンサーは,1)胎児期から確かに活性化されること,2)肝を含めほぼ全身で活性化される普遍的なエンハンサーであること,3)成獣肝や肺において抑制されること,を明らかにした.
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