報告者らはすでにラット脳cDNAライブラリーよりHNK-1糖鎖抗原の生合成に関わる二種類のグルクロン酸転移酵素(GlcAT)のクローニングに成功しこれをGlcAT-PおよびGlcAT-Sと名付け、それぞれについて生化学的、分子細胞生物学的研究を進めている。本研究においてはヒトGlcAT-P遺伝子を初めてクローニングし、本酵素が334アミノ酸残基よりなるII型の膜タンパク質であること、また、そのゴルジ内腔側に位置する触媒ドメインはラットGlcAT-Pと6個のアミノ酸が異なるのみで、98.2%のアミノ酸相同性を示すこと、しかし、ヒト酵素はラット酵素に対して13アミノ酸残基短い細胞質ドメインを持つことを明らかにした。次に、ヒトGlcAT-P遺伝子の染色体での位置を11q25と決定した。本酵素の受容体特異性を調べ、N-アセチルラクトサミン(Galβ1-4GlcNAc)を良い基質とするが、異性体であるラクトN-ビオース(Galβ1-3GlcNAc)を基質としない。また、bi-アンテナ-、tri-アンテナ-、tetra-アンテナ-型のN-グリコシド型糖鎖はGlcAT-Pに対していずれも受容体基質としてほぼ同程度の活性を示したが、tetra-アンテナ-型糖鎖の4個の末端N-アセチルグルコサミン残基に対して異った活性を示し、Galβ1-4GlcNAcβ1-4Manα1-3分枝に対して最も高い活性が見られた。さらに、GlcAT-Pはその糖タンパク質性基質に対する活性発現にスフィンゴミエリンを必要とすることをすでに明らかとしているが興味あることに、糖脂質性基質に対してスフィンゴミエリンは全く活性化因子としての作用を示さず、代わりにホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリンが活性化作用を示した。
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