染色体末端のテロメア部分は特殊なくり返し塩基配列DNAからなり、染色体の安定性に重要な役割を持つ。染色体末端のテロメア部分を精製する方法がなかったため、構成タンパク質を総括的に解析することができなかった。ヒト不死化細胞の中には、テロメラーゼ活性陰性であるにもかかわらずテロメアが維持され無限増殖する例外的な株があり、このような細胞株には例外なく染色体外テロメアDNA配列の核内集合体(ECTR)が存在することをin situ hybridizationによって突き止めた。染色体末端テロメア部分のモデルになるか検討し、以下のことがわかった。ECTR-DNA自身は数kbp程度の短いDNAであるにもかかわらず、繰返し配列同士のアニーリング(と思われる)によって、巨大な複合体として挙動していることを電気泳動的に確認した。ECTRには、既知のテロメア結合タンパク質が共存することが免疫染色によって分かった。そこで次にECTR-タンパク質複合体の精製を試みた。分裂期の細胞を集め、緩和な条件で細胞膜を溶解し、分画遠心、密度勾配遠心等の条件を工夫することによってECTR-タンパク質複合体を濃縮した。全DNAの1%がECTR-タンパク質複合体を含む分画に回収される条件で、Alu配列をほとんど含まないまでに精製されたことがサザン解析によって明らかになった。混在する可能性のある染色体断片を抗ヒストン抗体によって分別し、ECTR-タンパク質複合体をさらに精製することを試みたが、使用に耐える抗ヒストン抗体がなかった。この段階でも、染色体全体に含まれるタンパク質組成とはかなり異なることが明らかになったが、さらに遠心分画を組み合わせてECTR-タンパク質複合体を精製し、そこに含まれるタンパク質を二次元電気泳動して、染色体全体には含まれない既知・未知のタンパク質を同定する。
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