細胞が無限分裂するためには複製毎のテロメア短縮を補償する必要があり、無限分裂する細胞の大部分はテロメアDNA合成酵素=テロメラーゼを発現している。しかし、ヒト不死化細胞の中にはテロメラーゼ活性陰性であるにもかかわらずテロメアが維持され無限増殖する例外的な株がある。このような細胞株には染色体外テロメアDNA配列の核内集合体(ECTR)が多量に存在することを初めて突き止め、これが染色体末端のテロメアの供給源になっているとの仮説をたてた。 本研究では、1.癌組織にテロメラーゼ活性陰性ECTR発現細胞を確認した。2.テロメラーゼ陽性癌細胞にテロメラーゼ阻害剤を与え続けると、ECTRが出現して阻害剤耐性株となる事例を確認した。これらは、テロメラーゼ阻害剤を制癌剤として利用する際に問題になる。3.ECTR-DNAは数kbpの短いDNAであるが、繰返し配列同士のアニーリング(と思われる)によって、巨大複合体として挙動することを電気泳動的に確認した。ECTRには既知のテロメア結合タンパク質が共存することが免疫染色によって分かった。4.分裂期の細胞膜の溶解、分画遠心、密度勾配遠心等の条件を工夫し、ECTR-タンパク質複合体を濃縮した。全DNAの1%がECTR-タンパク質複合体を含む分画に回収される精製条件で、Alu配列をほとんど含まないことがサザン解析で明らかになった。混在の可能性のある染色体断片を抗ヒストン抗体によって分別し、ECTR-タンパク質複合体をさらに精製することを試みたが、使用に耐える抗体がなかった。この段階でも、染色体全体に含まれるタンパク質組成とはかなり異なることが明らかになったが、さらに遠心分画を組み合わせてECTR-タンパク質複合体を精製し、そこに含まれるタンパク質を二次元電気泳動して、染色体全体には含まれない既知・未知のタンパク質を同定することが必要である。
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