本研究は、がん組織の維持、成長、および転移に必須の現象である腫瘍血管新生に着目し、がん細胞を直接の標的とせず、腫瘍新生血管を破壊することによる間接的ながん治療法(腫瘍新生血管障害療法)の確立を目的として行った。これまでに、腫瘍新生血管を標的とする実用的な低分子リガンドを得るために、ファージディスプレイペプチドライブラリーを用いて新規標的化ペプチドを探索し、腫瘍組織に顕著に集積するペプチド発現ファージを3種類得ることに成功した。さらにエピトープ配列を検討し、WRP配列に血管新生抑制活性を見出した。またPRP配列の腫瘍新生血管標的化リポソームDDSへの応用を試み、アドリアマイシン内封ペプチド修飾リポソームの高い腫瘍増殖抑制効果と延命効果を見出した。さらに疎水性の新規制がん剤である(DPP-CNDAC)をPRP修飾リポソーム膜に組み込み、同様の検討を行った結果、PRP修飾によるリポソームのがん局所への集積効果は減弱したがDPP-CNDACの抗腫瘍効果が著しく向上した。このことから、DPP-CNDACの標的細胞ががん細胞から新生血管内皮細胞に変化したことが示唆された。またヒトのがん治療への応用を考え、ヒト組織切片を用いてPRPペプチドの反応性について検討した結果、PRPペプチドはヒト組織においても新生血管内皮細胞に特異的に結合した。さらに、インビボにおけるPRP修飾リポソームの体内動態解析等の検討から、腫瘍新生血管にリポソームが結合し、血管内皮細胞を傷害していること、これによりがん細胞がアポトーシスを起こしていることが見いだされた。本研究の結果は、腫瘍新生血管障害療法が新規がん治療法として極めて有効であること、併せてPRPペプチド修飾リポソームがそのツールとして有用であることを示している。
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