研究概要 |
新しい作用機構によるHIVプロテアーゼ阻害剤の導入はエイズの多剤併用療法における新たな展開をもたらしているが,薬剤の投与量,経済性,副作用,耐性,中枢神経系組織への移行性など解決しなければならない問題点が山積みである. このような問題点を克服するため,我々は,NMR構造解析並びに分子モデリング手法を用いる分子認識解析研究により得られたデータに基づいて,理想的な基質遷移状態ミミックであるヒドロキシメチルカルボニル(HMC)イソステアを含む小分子型のHIVプロテアーゼ阻害剤のデザインと合成を行った. P2位にジメチル基を有するKNI-549がHIVプロテアーゼ阻害活性を示したのでこれをリード化合物としてオプチマイゼーションを進め,コンフォメーション制約型のKNI-577が,強い抗ウイルス活性を示すことを見いだした.さらに,HIVプロテアーゼの2量体対称構造を考慮したKNI-764が強い抗ウイルス活性を有し,野生型及び,合成HIVプロテアーゼアナログ両方に強い阻害活性を示すことすなわち薬剤耐性克服の可能性を秘めていることを見いだした. 小分子型かつ高活性の阻害剤はコストの点で有利であり,また耐性発現の問題においても,分子認識の考察に基づき,変異酵素との相互作用部位が少ない点から有利であると思われる.さらに低分子になることにより組織移行性がよく体内動態の点でも有利であり,少量投与が可能となると期待される.このことからHMCイソステアを含むジペプチド型阻害剤は多剤併用療法における次世代耐性克服型HIVプロテアーゼ阻害剤として有望であることを示すことができた.
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