研究概要 |
新しい作用機構によるHIVプロテアーゼ阻害剤の導入はエイズの多剤併用療法における新たな展開をもたらしているが,薬剤の投与量,経済性,副作用,耐性,中枢神経系組織への移行性など解決しなければならない問題点が山積みである このような問題点を克服するため,我々は,NMR構造解析並びに分子モデリング手法を用いる分子認識解析研究により得られたデータに基づいて,理想的な基質遷移状態ミミックであるヒドロキシメチルカルボニル(HMC)イソステアを含む小分子型のHIVプロテアーゼ阻害剤のデザインと合成を行った.小分子型かつ高活性の阻害剤はコストの点で有利であり,また耐性発現の問題においても,分子認識の考察に基づき,変異酵素との相互作用部位が少ない点から有利であると思われる. 理想的なHMCを含むジペプチド型HIVプロテアーゼ阻害剤KNI-727やKNI-764が高いHIVプロテアーゼ阻害活性を有することを見いだした.このKNI-764は,酵素結合の熱力学的解析により,変異HIVプロテアーゼに対しても高い結合能力を保持しており耐性克服の可能性が高いことを示した. さらに,逆転写酵素阻害剤とのハイブリッド型抗エイズ薬にすることにより細胞膜透過性に優れ,相乗効果をもつ本格的な第三世代の耐性克服エイズ治療薬のデザインと合成をめざした.その結果,ジペプチドKNI-727と逆転写酵素阻害剤AZTとを自発的切断可能なリンカーで結合させたダブルドラッグKNI-1039が高い抗HIV活性を示すことを見いだした.また,このダブルドラッグが生体内と同じ条件下で,実際に分解されてKNI-727とAZTが再生されることを示し,抗エイズ薬として有望であることを示した.
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