ディーゼル排気の生殖系への影響と内分泌かく乱作用を解析するために、今年度は妊娠マウスにディーゼル排気を暴露し、その胎仔の成長への影響を主に検討した。 妊娠マウスを暴露群と対照群にわけ、暴露群には、妊娠1日目から13日目まで環境中濃度に近いディーゼル排ガス(DEP:100μg/m^3)を暴露した。妊娠14日目に胎仔を摘出し体重を測定した。胎仔下肢からRNAを抽出、逆転写後、PRISM7700を用いて、胎仔生殖腺分化において必須の因子であるSteroidogenic Factor 1(SF-1)およびMullerian Inhibitory Substance(MIS)mRNA発現量を測定した。 DE暴露により、14.5日齢における胎仔重量がおよそ10%増加した。また、同一母獣の胎仔重量にほとんどばらつきがないことから、胎仔重量増加の要因はディーゼル排ガスに対する母獣の感受性が大きく影響していることが示唆された。排ガス暴露群では胎仔のSF-1mRNA発現は雌雄とも低下し、MIS mRNA発現は雄胎仔において低下した。SF-1は胎仔性分化のみならず、ステロイド合成、性行動にも関与することが報告されており、ディーゼル排ガス暴露がステロイドホルモンの生合成を介し内分泌かく乱作用を示す可能性が示唆された。一方、MISは雄胎仔期の生殖器官の発達期に輪卵管、子宮と膣上部の生殖輸管系原器であるミュラー管の退化を誘導し、さらに、精巣の分化と機能維持にも重要な役割を果たしていることから、雄性生殖器発達への影響が考えられる。MIS mRNA発現量と胎仔重量には負の相関が認められた。このことは、MIS遺伝子が直接胎仔重量に影響を及ぼしていることを示しているわけではないが、DE暴露を受けた感受性の母獣にはMIS発現と胎仔重量の両方に影響を与える何らかの要因が存在する可能性を示唆している。
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