研究概要 |
先頃,我々は,日本人男性(子どものある人)のY染色体を4つに分類し,それぞれのタイプの男性の精子数を調べると,タイプにより精子数が有意に異なること,および,精子数の少ないタイプは,他のタイプに比べて無精子症になりやすいことを報告した。また,いくつかのマスコミで報じられたように,このうち精子数の少ないタイプは原日本人(縄文系)のタイプと考えられる。このように,分子的な解析と,医学的知見,人類学的・進化的知見を統合した考え方は新しいもので,一般から内外研究者まで多くの問い合わせをいただいた。 これらの事実から,直ちに発せられる質問の代表的なものは,「なぜ精子数が少なく無精子になりやすい男性の系統が生き残ってきたのか」ということである。さまざまな研究の方向性の中で,本研究では「実際の歴史の上で,それぞれのタイプの男性の割合(シェア)がどのように変化したか」ということを研究可能であるかどうかも含めて検討することを目的としている。 本研究では生殖可能年齢まで達した孫がいるような男性400人を集めることを目標とし,各男性に始まる三世代家系図を作成する。一方で,それらの男性のY染色体(または,同じY染色体を共有する人)のDNA解析を行いハプロタイプを決める。男性のグループ毎に子どもの数,孫の数,Y染色体を受け継いだ孫の数などを集計し,グループ間に統計的な差があるかどうか解析する。第三世代を20歳台に取れば,第二世代はおおよそ団塊の世代であり,第一世代は大正から昭和にかけての世代である。この間に実際に起きたY染色体の淘汰(=男性の適応度)を明らかにできると考えている。本年は初年度にあたり,実行可能なことと倫理的問題等を検討した。また,大学医学部学生の協力を得て,約200人程度の情報を収集しているが,今後も情報収集を続けて行う。
|