研究概要 |
リポソームは,1990年に入りポリエチレングリコールによる表面修飾によってlong circulating liposomes (LCL)の開発に成功したが,耐性を獲得した癌細胞に対しては,更なる改良が必要であることは言うまでもない.主要な耐性機構の一つとして,細胞膜にp-糖蛋白質などのポンプを発現し,抗癌剤を細胞外へ汲み出すことにより細胞内の抗癌剤濃度が上昇することを阻止していることが知られている.そこで我々は,「耐性癌細胞においては,細胞膜を拡散で透過させることは難しいので,キャリアーを用いてエンドサイトーシスの経路を介して細胞内へ送達し,細胞内で抗癌剤を放出させれば,一部の抗癌剤がポンプにより細胞外へ汲み出されても,ある割合で細胞内の作用部位へ送達が可能になるであろう」と考えた. 平成13年度は,in vitroで耐性癌細胞における抗腫瘍効果増強を目指したキャリアーの最適化を行った. (1)濃度依存型のドキソルビシンの抗腫瘍効果の評価:抗癌剤としてドキソルビシンを選択し,1)レセプターの選択,2)標的リガンドの表面修飾,3)細胞内動態の制御の観点から最適化を行った. (2)時間依存型のECydの抗腫瘍効果の評価:抗癌剤としてECydを選択し,同様に,1)レセプターの選択,2)標的リガンドの表面修飾,3)細胞内動態の制御の観点から最適化を行った. いずれの実験においても,レセプターの選択,標的リガンドの表面修飾の最適化,細胞内放出速度の最適化というそれぞれの過程における最適化を行うとともに,全体を最適化することが最終的な目標であり,今後は,細胞内速度論モデルを構築し,シミュレーションにより各過程の最適条件を決定し,さらに全体を最適化するための条件についてpharmacokinetic/pharmacodynamic(PK/PD)解析を行う.
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