個別薬物療法のための薬物代謝酵素の遺伝子の多型情報を整備することを目的とし、そのための基礎的検討を行った。(1)ヒト薬物代謝酵素であるCYP2A6にっいて、ヒトin vivo表現型と遺伝子型の相関について検討した。(2)ヒトにのみ非常に希に重篤な肝障害を誘発するトログリタゾンについて様々な検索を行った。1については、ニコチン代謝'能を評価した健常日本人92名および韓国人209名の末梢血ゲノムDNAについて、9種類の遺伝子型をPCR法により判定した。その結果、ニコチン代謝活性の低い5名の被験者はヘテロCYP2A6^*4(遺伝子の全欠損型)であったが、片方のアレルはいずれもCYP2A6^*7であった。特に低い活性を示した2名はCYP2A6^*7とCYP2A6^*8の変異を両方有する新規遺伝子型であった。(CYP2A6^*10)。CYP2A6^*1X2(重複型)などの遺伝子頻度は日本人と韓国人で人種差が認められた。2については、ビリルビンの体外排泄を行うトランスポーターの異常がトログリタゾン肝障害の発症原因であるという仮説のもとに、OATP-CとOATP-Bトランスポーターに注目した。当研究室で行われているトログリタゾン誘発性肝障害を生じた患者2名の遺伝子解析において2ケ所のSNPsが明らかになっている。日本人で見出されたSNPsの遺伝子頻度を明らかにするために日本人267名について多型判定を行った。すなわちOATP-C、OATP-B遺伝子上のそれぞれ4ケ所、2ケ所の変異について判定した。OATP-Cに新規遺伝子型であるOATP-C^*15を発見した。またOATP-Cの4ケ所の変異には人種差が存在することが明かとなった。またトログリタゾンのキノン体代謝物が肝障害発症に関与している可能性を見出し、さらにアポトーシスの関与を証明した。さらにこれまで報告されていない新たなキノン体代謝物を同定し、この代謝物も少なからず肝細胞傷害性をもつことを見出し論文として報告した。
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