我々はこれまでに東洋人に特徴的なCYP2D6*10(以下、*10)の薬物代謝における重要性を見出してきている。今回は、この*10の酵母発現系を構築し、*10の活性について検討した。これにより、*10の活性低下が本酵素の発現量の低下と、基質への親和性の低下によることを明らかとした。 さらに、CYP2D6の基質薬物である抗不整脈薬メキシレチンの健常人での薬物代謝について検討した。すなわち、メキシレチンの血中動態の個人差に及ぼす*10の影響を検討した。その結果、CYP2D6*1/*1(n=5)とCYP2D6*10/*10(n=4)の被験者間で血中濃度には顕著な差が認められなかった。しかし、CYP2D6代謝活性の指標として算出した尿中のメキシレチンと代謝物の水酸化メキシレチンの比では上記の2群間に有意な差が認められた。また、*10/*10と分類した被験者の一名が他の*10/*10の被験者に比して低い活性であることが認められた。そこで、この一例につき新規の遺伝子変異の存在を考慮して検討を行った。サザン法による遺伝子構造の解析ではこれまでの報告と同様であったため、このCYP2D6の全塩基配列を決定した。その結果、CYP2D6のexon9に14個の遺伝子変異を持つ遺伝子型であることが判明した。この変異型の遺伝子配列はCYP2D6*10CもしくはCYP2D6*36として報告されているものであった。しかし、日本人については詳細に検討されていなかったため、その重要性を考慮し、遺伝子型判定法を開発し頻度解析を行った。その結果、4%の日本人がこの遺伝子型を有することが判明した。また、発現系を用いた検討でも*10に比してCYP2D6*36の活性が顕著に低下していることを明らかにした。
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