研究概要 |
慢性閉塞性呼吸器疾患(COPD)に対する現行の治療は対症療法に過ぎず,特効薬の開発のためには,最先端の科学技術を用いて呼吸器の生理およびCOPDの病態生理を解明し,新しい基礎的知見を蓄積していくことが必須である.この目的の元,本年度は,まず,上部・下部気道における粘液産生に対するグルココルチコイドの抑制作用に,グルココルチコイドの不活生化酵素である11β-hydroxysteroid dehydrogenase(11β-HSD)が重要な役割を果たす可能性について追求した.In vitroの実験系において,11β-HSD阻害薬はグルココルチコイドによる粘液遺伝子の発現抑制作用を著明に亢進し,グルココルチコイド耐性であるCOPDに対する治療の補助薬として11β-HSD阻害薬が有用である可能性を示した.また,中部気道における生体防御因子の一つであるGM-CSFの転写がMEFおよびETS-2という2種類のETS転写因子によって,それぞれ促進および抑制されることを明らかにし,気道の初期免疫におけるETS転写因子の重要性を示唆した.一方,下部気道・肺胞領域では,肺胞II型上皮細胞からの肺サーファクタントの分泌がprotein kinase AおよびCの両情報伝達系の活性化によって生じる細胞内Ca^<2+>の流入によって著明に亢進されることを解明し,II型細胞が特異的な細胞内Ca^<2+>制御機構をもつことを示した.さらに,肺胞II型細胞からI型細胞への分化には,CO_2ガス分子の細胞膜透過性の亢進を伴うことを見出し,肺胞上皮細胞の分化において細胞機能と相関する初めての指標を与えた.これらの知見は,COPDの病態生理の解明および治療薬の開発において,画期的なコンセプトを提唱する重要な基礎データであると考えられる.
|