血管内皮細胞が血栓形成に果たす役割は大きい。近年、動脈硬化症は炎症性変化のひとつであることが注目され、血管内皮細胞と白血球との相互作用の血栓形成における役割が重要と考えられてきた。われわれは、炎症性サイトカインと血流の両者が血管内皮細胞上の血栓制御因子の変化に中心的役割を担っており、血小板・凝固・線溶に係わる様々な因子を遺伝子レベルでたくみに制御する機構を解明してきた。本研究では、血球と血管内皮細胞の相互作用による血栓性への変化には血管内皮細胞膜上に発現している接着因子の関与も重要であることに着目し、平成12年度はEセレクチンやMcl-CAMの動態を、平成13年度はICAM-1、VCAM-1、Eセレクチンと白血球との動態の関連を検討した。ヒト膀帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)を培養し、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体を用いたウェスタンブロット法による観察ではICAM-1、VCAM-1、Eセレクチンの接着分子は静止時未刺激では発現は殆ど認められず、腫瘍壊死因子(TNF)-α刺激後3〜9時間で発現が増強した。一方Mel-CAMは静止時未刺激でも発現が強く認められ、TNFやLPS刺激後の変化は軽度であったが、培養上清中の放出が増大し、TNF刺激後には膜上の発現も増加した。健常成人の末梢血より比重遠心法にて単核球を分離後培養液に再浮遊させ、HUVECとの接着を観察したところ、未刺激では殆ど接着が見られないが、TNF-α刺激後6時間で優位に接着が認められた。これらの変化を血流は抑制する方向に作用した。単核球と血管内皮細胞との相互作用には、サイトカインや接着因子などの関与が重要であるが、恒常的な血流は接着因子の発現に抑制的に働き、これらの制御に重要な役割を果たしていることが示唆された。
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