研究概要 |
我々は本大学と産業技術総合研究所と国立スポーツ科学センターと共同してスポーツ傷害における治癒促進のための高気圧酸素療法の有用性を基礎的および臨床的な観点から研究を進めている.今回,基礎的研究としては高気圧酸素療法の靱帯損傷の治癒過程に対する影響を力学的粘弾性の観点より検討した.9週齢のWister系雄性ラット10頭の右膝蓋靱帯中央部に2mmの横切断(部分切断)を加え,その翌日より高気圧酸素療法を行ったHBO群(2ATA100%O2 60分/日(5回/週;計10回))と高気圧酸素療法を行わず靱帯切断後そのまま放置したAir群を対象とした.断裂4週目に両側の膝蓋靱帯を取り出し,肉眼的,組織学的検討および動的粘弾性測定装置を用いて粘弾性の測定を行った.実験条件は周波数11,35HZで0.39Nの静的牽引力にて変位,引っぱり応答を測定した.その結果は肉眼的,組織学的所見では,患側のHBO群における正常組織と再生組織との境界部位はAir群比較して不明瞭であった.stiffnessにおいては,4群ともに11HZに比して35HZ周波数において低くなる周波数依存性を示し,患側の靱帯はHBO群およびAir群ともに周波数に関係なく健側よりも有意に低い値を示した(p<0.05).位相差tanδにおいては11HZにおいてHBO群の患側の靭帯は他の3群と比較して有意に高い値を示したが(p<0.05),35HZにおいては4群間に有意差は認められなかった.以上の結果より,力学的な観点からみると,高気圧酸素の使用によって急速に再生された靭帯は正常治癒によって再生される靭帯と比較して機能的にまだ不十分である可能性がある.現在は,従来の高気圧酸素療法の研究のみならず,局所に対する酸素供給の治療法を新たに開発中である.
|