研究概要 |
授乳期の抗重力筋活動が神経・筋の発育におよぼす影響を追求した。新生ラットを生後4日から3ヶ月間後肢懸垂した場合、ヒラメ筋重量(体重比)は3ヶ月間全く増加しなかった。筋線維長はコントロール群とほぼ同レベルであったが、横断面積はコントロールの約25%であった。このような筋線維における筋核数はコントロール群の約30%であった。しかも懸垂群には一般的に容積の大きな核が認められた。個々の核に含まれるDNA含有量には差は認められなかったが、単位容積あたりのDNA量は懸垂群が有意に低値であった。個々の筋核が支配する細胞質容積も有意に低値であったことから、懸垂群に多く認められた大型サイズの核は、小型サイズの核に比べてタンパク質合成能が低いものと推察される。筋核の特性に影響を及ぼすと思われる衛星細胞数も後肢懸垂群が顕著に少なく、休止期及び分裂期の衛星細胞ともにコントロール群のほぼ1/4であった。 ヒラメ筋における遺伝子では、ケージ内飼育による3ヶ月間の発育によって抑制されるcathepsin L, heat shock protein 27の発現は後肢懸垂によって逆に亢進した。一方、後肢懸垂により発現が抑制される遺伝子としては、heat shock protein 70などが認められた。発育に伴い増加する発現が懸垂により更に助長されたものは、ubiquitin-conjugating enzyme E2, mitochondrial ATP synthase B subunit precursorなどであった。また、cathepsin H, cathepsin K, insulin-like growth factor (IGF1)などは懸垂に影響を受けなかった。myosin light chain 1 and 3, heat shock 20kDa protein, creatine kinase, αB-crystallinなどのタンパク質発現は、後肢懸垂によって抑制された。逆にβ-enolaseのように懸垂群の発現が高いものも認められた。 本研究の結果、成熟ラットの筋に見られる筋線維タイプの違い等は、遺伝的にプログラムされたものではないことが明らかとなった。発育期における筋そのものの活動パターン等が、自分自身の特性を決定することが示唆された。
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