研究概要 |
本年度は、独自に開発したラット筋力トレーニングモデル(Tamaki T et al,Med.Sci.Exerc.1992)とステロイド製剤、デカン酸ナンドロロンを用いて以下の実験を行った。1)運動量の測定、2)筋力トレーニング後単位時間内に筋内へ取り込まれる、アミノ酸(^<14>C-Leucine)及びサイミジ(^3H-Thymidine)量(運動前及び運動後3時間から2週間後まで継時的に測定)、3)筋細胞膜へのダメージの指標として血中CK濃度の測定(運動前及び運動後30〜60分)、さらに、4)末梢神経系への影響を検討するために、麻酔下in-situの条件で挫骨神経を介した電気刺激による神経・筋機能の測定を行った。その結果、1)運動量はコントロール群(C群)に対しステロイド投与群(S群)で有意に増加した。2)アミノ酸の取り込み量も有意に促進されたが、サイミジンの取り込みは逆に有意に抑制された。これは、筋内でのタンパク合成は促進されるが、DNA合成は抑制されることを意味しており、細胞の増殖に対して蛋白同化ステロイドは抑制的働く可能性が示唆された。また、アミノ酸の取り込みが、C群で運動後24〜72時間後に上昇するのに対し、S群では6〜24時間後に上昇していたことから、タンパク合成サイクルも促進されたと考えられた。3)本モデルにおける血中CK濃度の変化に関しては、運動後有意に上昇し筋力トレーニングが少なからず筋肉にダメージを与える運動であること、及び運動量と血中CK濃度の上昇がほぼ比例することをすでに報告している(Tamaki T et al,Am.J.Physiol.1997,2000)。今回、その上昇率を両群で検討したところ、C群に対しS群は運動量が有意に増加していたにもかかわらず、血中CK濃度は逆に有意に低い値を示した。このことは筋力トレーニングによる筋細胞膜の損傷がステロイド投与により抑制されたことを示唆するものであった。4)麻酔下in-situでの機能測定では、筋収縮力・速度には変化が認められなかった。また、神経伝導速度及び神経・筋接合部における伝達速度にも変化は認められなかったことから、末梢神経系への影響はないものと考えられた。しかし、筋疲労テストでは筋疲労が有意に遅延する結果となり、前述の運動量の増加、血中へのCK流出抑制、サイミジンの取り込み抑制の関連をさらにサポートするものであった。以上の結果は、非常に興味深い新たな情報であり、海外の学術誌(Am J Physiol)に投稿し、受理された。
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