研究概要 |
本研究ではまずラット筋力トレーニングモデル(Tamaki T et al.,Med.Sci.Exerc.1992)を用いて、蛋白同化ステロイド(デカン酸ナンドロロン)投与と筋力トレーニングとの関連、特に機能的影響と、末梢の筋粗織における代謝変化、細胞増殖、遺伝子合成に与える影響を検討した。また、麻酔下in-situでの筋機能、神経伝導速度、神経-筋接合部の伝達時間を測定した。さらに、脳内の生体アミン類を高遠液体クロマトグラフで測定し、中枢神経系への影響を検討した。その結果、1)筋力トレーニング時の総運動量が増加した。2)筋内のアミノ酸代を亢進し、その謝回転も促進する。3)しかし、DNAの前駆体であるサイミジン代謝は影響を受けずむしろ抑制される傾向を示した。即ち、ステロイド投与は細胞内の蛋白合成は促進するが、細胞増殖はむしろ抑制する(培養系でも確認)ことを示していた。4)また、筋力トレーニングに伴う筋損傷の指標となる血中CK濃度の上昇が抑制され、筋細胞膜の損傷を軽減する効果があると示唆された。5)筋収縮力、速度、神経伝導速度及び神経・筋接合部における伝達時間には変化が認められなかった。即ち、末梢の神経-筋系への影響は否定された。しかし、6)筋疲労テストでは筋疲労が有意に遅延する結果となり、前述の運動量の増加をサポートするものであった。7)視床下部のノルアドレナリンとその代謝産物であるMHPGレベルが各々2倍、7倍に増加し、全身的な交感神経亢進状態を表しているものと考えられた。8)視床下部のセロトニンとその代謝産物である5-HIAAも各々〜40%,〜50%と同様に増加していた。これら視床下部ニューロンの活性化は抗c-fos抗体を用いた免疫絹織化学でも確認された。このような中枢神経系、特に視床下部ニューロンへの影響が明らかになった以上「筋肉増強剤としてスポーツ選手に使用されるべき薬物ではない」ことが明白となった。
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