本研究では、常圧・低酸素環境が全身持久能力に与える影響を「居住」と「トレーニング」に関する実験を通して検討した。 酸素濃度を16.4%、15.6%、14.9%に設定した低酸素室で1日10時間で7日間の居住を行わせた。1日目の動脈血酸素飽和度は酸素濃度が低い群ほど低下し、居住最終日には全ての群が約95%であった。EPO濃度は15.6%群と14.9%群で居住初期に有意に増加していた。その後の血液性状には、網状赤血球数の増加を除き有意な変化はみられなかった。14.9%群では居住後、最大換気量と最大酸素摂取量の増加が観察された。最大酸素摂取量の向上をねらう場合、14.9%程度以下が必要であるといえる。また、酸素濃度を14.9%に設定し、1日10時間で6日間居住させた実験では、居住中に拡張期血圧が増加したことから、細動脈血管の収縮や動脈血流の促進が示唆された。加えてNK細胞活性が向上し、免疫機能の亢進が示唆された。 酸素濃度を15.6%に設定した常圧・低酸素室内で持久的トレーニングを4週間行わせると、最大酸素摂取量は増加傾向を示し、近赤外線分光法を用いて評価した外側広筋の酸素供給能力はトレーニングにより向上する傾向を示していた。これらのことから、常圧・低酸素環境下での持久的トレーニングは呼吸循環能力向上に有効であると考えられる。また、同様の環境で自転車エルゴメーターを用いてインターバルトレーニングを4週間行わせると、血液性状には変化が認められず、最大酸素摂取量も変化しなかった。しかし、乳酸性作業閾値には有意な向上が観察され、自転車駆動の平均パワーも増加した。したがって、このようなトレーニングは乳酸の緩衝能力を向上させる効果があると考えられた。 以上の実験から常圧・低酸素環境は全身持久能力を向上させるのに有効であることが明らかとなった。
|