本年度の実施計画について、ほぼ実施することができ、さらに次年度に向けての資料の整備も進めることができた。 日本の近世と近代を結ぶ最も重要な地誌書は吉田東伍の『大日本地名辞書』であるということと、この辞書に、東アジアの伝統的な場所表現の具体例が凝縮されているという認識に基づいて、吉田東伍の人物像と伝記的叙述、『大日本地名辞書』の分析、吉田東伍の著述活動の確認を試みると同時に、『大日本地名辞書』の地誌的叙述と現代の歴史地理の成果との関連を飛鳥・斑鳩および、日本の空間論について考察をした。 主要な成果は以下の通りである。 (1)吉田東伍の人物像と伝記的記述については、『吉田東伍先生追懐録』(高橋源一郎編大正8年)の諸氏の叙述を分析し、東伍が独学で早稲田大学教授となり、博士号をとるまでの歩みをたどることができた。 (2)『大日本地名辞書』の分析は、膨大な著作であるため、次年度も継続する必要があるが、明治の行政区画について、東伍が歴史的継続性を重視して日常生活圏を重視すべきこと、つまり実体的な行政区画を問題にしていることを、その後のわが国における合併問題との関係と結びつけて考察した。 (3)吉田東伍の著述活動にについては、新潟県安田町の吉田東伍記念博物館で収集されている資料と目録類の検討を試み、同博物館から有意義な助言を得ることができ、次年度、吉田東伍初期論文集成についての作成をするための準備ができた。 本年度までの成果は、すでに150枚(原稿用紙400字詰め)の草稿ができているが、最終的には500枚近いものとしてまとめる予定である。
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