本年度も昨年度の吉田東伍の『大日本地名辞書』の業績を中心に、その編纂過程を後づける作業と関連業績の分析を実施した。とくに吉田東伍が青年時代を過した新潟県における政治運動とりわけ立憲改進党との関わりに注視した。 その中で地方自治を主張する立憲改進党に関係した吉田東伍は、後年政治運動とは直接関わらないが、『大日本地名辞書』の項目に平安時代に成立した『和名抄』の御名を設定した意味を解明することができた。その意味は地方自治の原点とでもいうべき行政単位の原初形態が古代の郷であるととらえたからである。そのような点において吉田東伍の『大日本地名辞書』という書名のもつ地誌書の表現的特性を見出すことができた。すなわち国家事業としての行政的目的をもつ地誌書と明らかに一線を画するものとして『大日本地名辞書』を位置づけることができた。 以上の他に今年度は『大日本地名辞書』が刊行される以前の吉田東伍の主要な著作集を編集した。郷里の新潟県北蒲原郡安田町時代、北海道時代、東京における読売新聞記者時代についての論文、随筆を選択的に集成し、資料集を作成する作業を終えた。
|