低温細菌は自然界に広く分布し、低温保存食品の品質をしばしば低下させる。本研究では、細菌の増殖に必須な細胞壁合成系酵素であるアラニンラセマーゼを標的とする低温細菌の殺菌法を検討した。 古くから殺菌剤として利用されてきた有機酸の低温細菌に対する殺菌効果を検討したところ、クエン酸、酢酸、乳酸、コハク酸、リン酸は、0.01%濃度で、低温菌に対して高い殺菌効果を示した。グラム陽性低温菌は、グラム陰性低温菌よりも酸に対する感受性が高く、Pseudomonas fluorescensに対しては、リン酸のみが比較的高い殺菌効果を示した。また、細胞内アラニンラセマーゼ活性は、全ての酸で著しく不活性化された。 次に、種々の有機酸とエタノールの併用効果を調べた。各酸の濃度は0.01%、エタノール濃度は1%とした。これらの濃度では、常温菌の細胞内アラニンラセマーゼ活性は低下せず、殺菌効果も見られなかった。酢酸とエタノールの併用では、グラム陽性低温細菌のBacillus psychrophilusとBacillus psychrosaccharolyticusの生菌数が著しく低下したが、グラム陰性〓Pseudomonas fluorescensにはほとんど効果が見られなかった。リン酸とエタノールの併用は、細胞内アラニンラセマーゼ活性を検出限界以下に低下させ、生細胞数も99%以上低下した。クエン酸とエタノールの併用は、Bacillus psychrophilusとBacillus psychrosaccharolyticusの生菌数低下には効果が見られたが、Pseudomonas fluorescens対しては大きな効果が見られなかったが、クエン酸濃度を0.5%としたエタノールとの併用では、全ての低温細菌に対して良好な殺菌効果を示した。 以上のように、低温細菌由来アラニンラセマーゼは常温細菌由来本酵素に比べて、低濃度のエタノールや有機酸によって容易に不活性化された。また、低温細菌は常温細菌に比べて、低濃度のアルコールや有機酸とインキュベーションすることにより効果的に殺菌された。
|